罪悪感の27年

スライド1

こんにちは、今井です。

フィクションです。

タイトルは「罪悪感の27年」です。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

その紳士とは離島のペンションで出会った。

台風で船が出ず、
足止めをくらっていた日だった。

暇をもてあましていたので、
談話室でウイスキーを飲んでいる彼に
声をかけたのだ。

最初はたわいのない雑談をしていたが、
しばらくすると紳士は酔いにまかせて
過去を語りだした。

「昔、ある男がいました。

男が大学時代の話しなのですが、
車で帰ろうとする後輩を引き留めて、
遅くまで酒を飲んでいたそうです。

そういう時代でした。

次の日、交通事故でその後輩が死んだと、
彼は聞きました。

飲酒運転で電柱に激突したそうです。

彼は大学にいけなくなりました。

もの凄い罪悪感にさいなまれて、
結婚もせず、仕事も転々として、
27年間生きているのです」

一瞬、2人の間に沈黙が訪れた。
私は我慢できずに聞いた。

「もしかして・・・、
それはあなたのお話しですか?」

紳士はウイスキーを一口飲んだ後、
じっとグラスを見つめた。

そして、私の方を見て言った。

「実はね、私は後輩の方です。
死んだなんてウソなんですよ。

あの先輩をからかおうとして、
サークルの他の先輩たちとつるんで、
そんなことを吹き込んだんです。

軽い冗談のつもりでした。

そしたら、先輩はもう大学に来なくなった。
まったく誰とも会いませんでした。

でも、サークルに来なくなる人は
珍しくもなかったので、
気にもしていませんでした。

数か月もしたら忘れましたよ」

窓を打つ雨が激しくなり、
談話室の電気がついたり消えたりした。

ウイスキーをグラスに継ぎ足してから、
紳士は続きを話し始めた。

「その先輩に再会したのは27年後でした。

ずっと私が死んだと思い込んで、
どん底の人生を過ごしていたそうです。

そして偶然、私のことを人づてで
聞いたらしくて・・・。

会った時には『27年間を返せ!』
と言われました。

ああ、先輩の人生を狂わせてしまうなんて。

私は罪を感じて、
まさに苦しみの中で生きています。

そう、私も27年間苦しんでいます。

先輩と再会してから、
今年でちょうど27年なんですよ」

「お互いに27年間ずつ苦しんだのですね。
何と言うか、とても複雑なお話に感じます」

「ははは。そうでしょう。

まだ続きがあります。

実は、先輩が27年間苦しんでいた
というのはウソだったんです。

先輩が大学に来なくなったのは、
本当は父親が事業で大成功して、
その手伝いで実家に呼び戻されただけ
なのだそうです。

ああ!
私のこの27年の苦しみは何だったんだ!

私は先輩にそう言ってやるつもりです」

「さ、さらにややこしいですね・・・」

「もっとややこしいですよ。

私も別に苦しんでませんからね。

別の人から話を聞いてて、
あの先輩の実情はすぐに分かりましたから。

『苦しんでいるのはウソ』だということは
最初からバレバレですよ。

私は苦しんでいるフリをするために
ここに来たんです。

離島で嘆き悲しんでいるところを
写真に収めるために来ました。

さぁ、あなた!
このiPhone7で私を撮ってくれませんか。

256MBですよ。スピーカーはステレオだし」

「自撮りでおねがいします」

『罪悪感の27年 ~文藝サークルの執念~』
<おわり>

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