恩師の遺志

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こんにちは、今井です。

 

本日はフィクションです。

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高校時代の担任の先生が、
先日亡くなった。

世界史の先生だった。

授業ですぐに脱線し、
若いころの話しをよくしてくれた。

そして、生徒に愛されていた。

先生が行った数々の海外旅行の経験談を、
私たちは興味津々で聞いたものだった。

そして、たびたび熱弁をふるう。

「お前たちは、政治家か官僚になって
世界から戦争をなくせ!」

と。

案外、その気になった生徒も多かった。

私もその一人だ。

先生の話を聞いた後は、
なぜか勉強する意欲が湧いたものだ。

まあ、結局は政治にはまったく関係ない、
ソフトウェア開発の下請けで働いている。

官僚になるほどの学力はなかった。

納期に追われる毎日だ。

今日は先生の「お別れの会」に参加するため
午後から休みをもらった。

夜に呼び出されて会社に行くかも
しれないのだが。

葬儀はすでにご家族だけで済まされている。

今日の「お別れの会」は、
私たちよりかなり上の先輩が音頭を取って
開催されるものだ。

会場には、高校時代のクラスメートも
たくさん来ていた。

高校の近くのその会場は、
想像していたより規模が大きかった。

やはり教え子の数も多いのだろう。

懐かしい顔を見ると少し笑顔になる。

先生も、しんみりは嫌いだろうから、
あまりかしこまり過ぎない程度にいる。

会が終わってから、クラスメートたちと
中華料理屋に入った。

高校時代によく通った店だ。
餃子がウマい。

今はそれにビールがつくので、
余計に食べすぎてしまう。

何年振りだろうか。

お互いの近況を話すたび声があがる。

驚きの声もあるし、
「ああ、そうだろうな」という反応もだ。

ある者は建設会社に、
ある者は自動車関係に、
ある者は小売業に。

私も、ソフトウェア関係の仕事を
していることを告げた。

誰も、政治関係はいなかった。

先生の遺志を継げたやつは
いなかったのか。

情けない笑いがその場を包んだ。

「でも、オレは・・・」

ビールのグラスをいっきに空けた。

「でも、オレは便利で良いシステムを
世の中に提供して、
それで戦争をなくしたいと思っている」

私は酒の勢いを借りて言った。

誰もが私を真顔で見た。

「オレも、良いビルを作って、
戦争をなくしたいと思ってる」

「オレも、良い車を提供して、
戦争をなくしたい」

「オレも、良いものを安く売って、
戦争をなくすんだ」

オイオイ泣いている私たちを見て、
店員が驚いた顔をした。

新しいおしぼりと、
頼んでいない紹興酒を持ってきてくれた。

携帯が鳴った。

案の定、会社から呼び出しだ。

「じゃぁ、オレ、先行くわ」

「ああ、またな」
「頑張れよ」

私は、毎日通った道を、
あの頃より早足で駅に向かった。

プラットフォームで水をいっきに
飲みほした時、電車のドアが開いた。

<おしまい>

 

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