かわいそうだけど有罪

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こんにちは、今井です。

ある男性が妻を殺しました。

夫はリストラされ、
また身体の不自由も抱えていました。

妻は脳梗塞の後遺症があります。

保証人になった多額の借金の返済で、
貯金はなくなっていました。

職を求めて上京するも当てが外れ、
夫婦は公園を転々とする毎日。

金銭が尽き、事件発生までの1週間に
2人が食べたのは牛丼弁当のみで、
あとは残飯をあさり、公園の水を飲み
飢えをしのいでいました。

妻は徐々に衰弱し、生きる希望を失い、
そして夫に「殺してください」と請います。

一度は妻を励ました夫も、
言葉も発しなくなるほど衰弱した妻を、
拾ったロープで絞殺してしまいました。

現場近くで放心状態だった夫は、
警察に職務質問され犯行を自供し、
逮捕に至ります。

あ、これ、「ビギナー」という
ドラマの話ですよ。。。

そして、裁判が始まりました。

司法修習生の由子は、
その夫に同情してしまいます。

「リストラを受けたこの夫婦は、
社会の犠牲者だ!」

と。

情状酌量の余地はないのか?
せめて執行猶予はつかないのか?

裁判を通じてさまざまな事実が
明らかになってきます。

同じ職場で働いていた同僚たちは、
解雇手当をもらっていました。

証人として出廷した同僚は、
他の社員は会社に申請して普通に
手当てをもらっていたことを証言しました。

裁判長は夫に、手当をもらわなかった
理由を質問しました。

「学がないものですから・・・」

と、ただ一言、自分を卑下しながら、
夫は申し訳なさそうに答えました。

終始、打ちひしがれたような表情です。

2人が死ななければならない必然性が
なかったといういくつもの客観的事実が、
裁判でさらされて行きました。

なぜ、救急車を呼ばなかったのか?
なぜ、役所や警察に相談しなかったのか?

聞かれるたびに夫は、

「学がないものですから・・・」

と、情けなさそうに言うばかりです。

夫が妻を絞め殺す前に、
アンパンを購入したことが
事情聴取の記録にありました。

逮捕当時、夫の所持金は5円でした。

夫はどんな思いでアンパンを買い、
二人でそれを食べたのか。

困窮の様子は客観的事実から窺えますが、
夫はそれらを他人に訴える性格ではなく、
とうとう犯行に至るわけです。

最終弁論の日。

裁判長は被告人である夫に、
最後に言いたいことはないかと
発言を促します。

夫は釈明をするでもなく、
ただ、泣きながら後悔の念を語りました。

「最後のお金で、
私はアンパンを買いました。

しかし、妻にはアンパンを食べる気力も
ありませんでした。

そして、かすれた声で『のどが渇いた』
と言いました。

ジュースを買ってやろうと思ったけど、
もうお金がありませんでした。

だから、空き缶を拾って、
公園の水を汲んできて飲ませました。

妻はまたかすれた声で、
『おいしい。ありがとう』
と言いました。

最後のお金で、アンパンではなく、
ジュースを買ってやれば良かった。

私は朝まで公園のベンチに座って、
そのことをずっと考えていました・・・」

泣きながらに話す夫は、
ただただ純粋で、そして哀れでした。

研修生席で傍聴していた由子は、
涙をこらえていました。

実習先の裁判官に、

「裁判官が泣いてしまったら、
情におぼれて冷静な判断ができていない
と周囲の人に思われてしまう」

という話を聞いたばかりだったのです。

由子は実習生として、
判決の起案を書きます。

殺人罪で懲役6年。
実刑です。

そして、

実際の判決はさらに重い量刑でした。

由子は、苦しい立場の人間の
気持ちに寄り添うとともに、

一方で、理性的に物事を判断する
大切さも学びました。

かわいそう、という感情。

だからと言って罪は罪である、
という冷静な判断。

どちらも併せ持つ必要があるのです。

判決の起案は、

「被告人を殺人罪、懲役6年に処す。
被害者は犯行当時、著しく衰弱しており、
判断能力を欠いている状況であり・・・」

と冷静な文字が並んでいます。

由子は、それを前の晩、
涙ながらに読み上げたのでした。

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