こんにちは、今井です。
今日は物語を一つ。
りんご師の子弟のお話です。
「りんご師」とは、お客様一人ひとりに
あったりんごを選ぶ仕事。
100個、1,000個の中からでも、
ぴったりの1個を選びます。
ある日、親方が弟子に言いました。
「鶴野さんのりんごを選ぶのだが、
別件があるので、やっておいてくれ」
弟子は木箱に入っている膨大なりんごを
1つずつ見て行きました。
「鶴野さんに合うりんごは・・・」
到底分かりませんでした。
弟子はガッカリしました。
親方が帰ってきてから、
そのことを報告しました。
親方はヒゲをなでながらニヤリとして、
こう言いました。
「この箱には100個のりんごがある。
ぴったりのりんごが分からなくとも、
これは違う、というのはあるだろう」
たしかに、傷がついたりんごや、
形の悪いものはありました。
さっそくそれらを取りのぞくと、
りんごは半分の50個に減っていました。
「これでわしの仕事が半分減った」
と、親方は言いました。
弟子は、「自分にはなにもできない」と
思いこんでいましたが、
親方の仕事を半分に減らす事ができて
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嬉しく思いました。
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そして、親方はそこから10個を選んで、
それらを選んだ基準を教えてくれました。
よく見ないと分からないのですが、
言われてみれば、良さそうだと、
弟子も思いました。
そして、親方はそこから1つを選びました。
最後の1つは、親方にも説明できません。
その日から、弟子が半分のりんごを
より分けるのが仕事になりました。
親方が1日に選べるりんごの数が増えて、
売上も上がって来ました。
そのうち、、、
弟子の目利きもだんだんと良くなって、
最後の10個が選べるようになってきました。
その頃には、弟子も増えてきて、
合計で10人になっていました。
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親方は、10個の中から1つを選べば
良いだけになり、さらに仕事をこなせる
ようになってきました。
待っていたお客様にも届けることができ、
多くの人に喜んでもらいました。
ただ、まだ選び方を間違う弟子もいて、
その時はやり直しでした。
「鶴野さんのを選ぶときはそれで良いが、
亀山さんに合うのはそうじゃない」
こう指摘された時、弟子達は、
りんご選びにおける深い思想について
すこしずつ学んで行きました。
誰にでも同じ対応をしていて、
自分たちが「バカの一つ覚え」だったと、
反省しました。
表面的なことではなく、
なぜ、この場合はこの対応なのかを
考えるようになって行きました。
そのうち、一番弟子は、最後の3つまで
絞り込めるようになりました。
他の弟子達が10個に絞り、
それを一番弟子が3個まで絞る事で、
さらに親方の仕事が減って、
届けられるりんごが増えました。
たまに親方がきまぐれで、100個のりんごを
より分けようとすると弟子達が止めました。
「親方は、最後の1つだけをしていて下さい。
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仕事が止まってしまいます。
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その仕事はわれわれにも出来ます」
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親方はしぶしぶ自分の持ち場に戻りました。
そのうち、最初の50個を選ぶために、
アルバイトを雇うことになりました。
ルールを決めれば誰でも選べることが
分かったからです。
しかし、10個に絞り込むルールは、
なかなか言語化できません。
ましてや、1つに絞り込むときの理由は、
親方にもどうしても説明できませんでした。
ある日のこと、、、
鳥山さんと犬岡さんのことで、
弟子たちが揉めていました。
親方が選んだりんごが両方に合うため、
どちらに渡すか議論になっていたのです。
購入額が鳥山さんの方が多いため、
多くの弟子は鳥山さんに渡すべきだと
考えていました。
しかし、鳥山さんは弟子たちには冷たく、
評判が良くありませんでした。
そこで、親方は、そのりんごを犬岡さんに
持って行く事にしました。
「親方、それで良いんですか?
売上が減るかも知れませんよ」
と、多くの弟子が言いました。
「しかし、長い目で見たら、犬岡さんだな。
こういうのを経営判断というんだ」
と親方は言いました。
いくらでも続けられそうですが、
このへんで。