ドローン拾い:時給920円

スライド1

 

こんにちは、今井です。

 

近未来フィクションです。

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車の中で仮眠を取っていると、
緊急出動サイレンが鳴った。

この近くでドローンが落ちたのだ。

オレはすぐにエンジンをかけ、
現場に向かった。

スマホでチェックすると、
オレの管轄内で飛んでいるドローンは93機。

そのうちの1機が墜落したのだ。

規制緩和の影響で、
最近は個人のドローン配送サービスが増えた。

近距離なら参入は自由だ。

しかも、業者どうしでリレー配送すれば、
距離規制はないに等しい。

マンションのオーナーにとっては、
新しいキャッシュポイントが増えた。

ドローンの発着ターミナルとして、
屋上を貸し出すらしい。

ただし、住民の苦情との兼ね合いだ。

事故も増えた。

草加市の幼稚園児の事件の後、
ドローン保険の金額は3倍になり、
子供のヘルメット着用も義務化の方向だ。

小型自動車の小回りを活かして、
オレは3分で現場に到着した。

歩道に落ちていたのは赤いドローンだ。
人通りはそれほど多くない。

墜落が原因ではない破損がある。
荷物がない。

これは、「ドローン落とし」の仕業だろう。

オレは、決められた手順に従い、
スマホに情報を入力し始めた。

あとはドローンを所定の基地に送り届けて
オレの仕事は終わりだ。

38歳にもなって時給920円のアルバイト。

1日中、車の中でぼうっと過ごす、
くだらない仕事だ。

現場には家から直接行く。
出勤はGPSで自動的にチェックされている。
1日に会話するのは1人か2人だ。

「このままでいいのか・・・」

考える時間があり過ぎて、
余計に気が滅入る。

ふと、、、

白い封筒が落ちているのに気付いた。

たぶん、荷物に入っていた手紙かなにかだ。

女性らしい綺麗な字で
「あきちゃんへ」
と書かれてある。

封はされていなかった。

オレはなんとなく手紙を取り出して、
読んでしまった。

そこには、入院中の母親から娘への
メッセージが書かれてあった。

今日がその子の誕生日らしい。

「そうか・・・。
その子へのプレゼントだったんだな」

オレは無性に腹が立ってきた。

ドローン落としはまだ近くに居るはずだ。

オレたちは、あくまでもドローン拾い業者
であり、オレはただのアルバイトだ。

問題には首を突っ込まないことが原則だ。

すべてお金で解決することになっている。
配送業者も送り主もそういう合意の契約だ。

しかし、オレは車を走らせた。

ドローン落としが潜んでいそうな
路地や車を必死で探した。

半日後、2Km離れた路地で、
ボロボロになった箱が見つかった。

値の張るものでなかったので、
結局、捨てられたのだろう。

中身はぬいぐるみだった。
少し汚れて、綿も出ていた。

送り状の住所を調べて、
オレはぬいぐるみを女の子に届けた。

女の子は喜んでくれた。

「保険で新しいぬいぐるみに交換される」
と説明したが、女の子は、
「これで良い」
と言った。

夜、布団の中で、
ドローン拾いになってから
初めて泣いた。