こんにちは、今井です。
フィクションです。
タイトルは「間違った目標」です。
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「自分は人生を無駄にした」
と嘆くお客は少なくないが、
彼もその一人だった。
その男性がうちのバーに来たのは
夜22時ごろ。会社の飲み会の後、
一人でふらっと立ち寄ったようだ。
50代で、大手企業の管理職、
部下にも慕われて、大きな仕事を
いくつも成功させている。
給料もそこそこ良いだろう。
何がいったい不満なのかと、
普通の人なら思うかもしれない。
でも、そんなお客を私はたくさん見てきた。
10人ちょっとで満席のお店には、
物静かな常連の客とその男性の2人だけ。
会社員らしい無難なスーツに鞄、
頭には白髪が少し。
人生相談なんてするつもりはないけど、
他人の人生を聞くのは面白い。
「ぼくは人生の目標を間違えたんですよ。
でも、この年で気づくなんてなぁ・・・」
「本当は何がしたかったの?」
「そうだなぁ、画廊かな。
学生時代の趣味なんだけど、封印してて」
「へぇ、面白そう。
どうして封印してたの?」
「画廊をやるにはお金もいるし、
ビジネスの経験も必要だし、人脈も。
あとは自信もなかったんですよね」
「ふ~ん。今なら出来るんじゃないの」
「えっ・・・?」
彼はそれから黙りこくった。
常連が何人か入っては帰って行き、
お店はバカ話で盛り上がった。
それから数か月して、、、
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それから数か月して、
またその男性がやってきた。
会社をやめて画廊を始めたらしい。
「人生の目標ができた」
と活き活きしている。
お礼にと、差し入れももらった。
どのお客を見てても思うのは、
「間違った目標」なんてないということ。
大企業で出世するという目標は、彼を、
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画廊を経営できる人間に成長させた
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のだから。
その人が成長すれば、
どんな目標でも良いのだ。
それにどんな目標でもその過程では
人は充実するし、そして成長する。
彼も管理職になるまでは、
充実していたはずだ。
画廊を営むという目標も、
そのうち色あせるかも知れない。
その時、彼はどんな人間に
成長しているのだろうか。
<終わり>